Archive for 2008年4月

柳家小里ん「五人廻し」

2008年4月29日

4月29日 落語協会4月下席昼の部@池袋演芸場

三遊亭歌ぶと 金明竹

柳家小権太 のめる

柳家甚語楼 弥次郎

柳亭左龍 羽織の遊び

ロケット団 漫才

林家しん平 反対車

柳亭市馬 雛鍔

~中入り~

林家正蔵 四段目

柳家さん生 親子酒

柳家小菊 俗曲

柳家小里ん 五人廻し

黄金週間といつても、暦の休み通りの出勤なのでけふのやうな一日だけの休日の過ごし方には毎度悩む。何処かに行かうかとフラフラと家を出たところ携帯から落語協会のホームページを見たところ、白酒師、三三師の代演で左龍、正蔵師が高座に上がるといふので池袋に行くことにした。

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■三遊亭歌ぶと 金明竹

前座としては標準以上、二つ目になるのも時間の問題ではないか。といふか、並の二つ目よりも実力はあると思ふ。容姿、落語の形は三三師に似てゐるやうな感じがしないでもないが、師よりは素直さう。それにしても歌武蔵師匠はいひお弟子さんを持つたものだ。もちろん師匠の指導の賜物だが、歌ぶとくんは将来が楽しみ。早速私の贔屓リストに入れておくことにしよう。

■柳家小権太 のめる

小権太さんは、運の悪い噺家さんだと思ふ。二つ目だと寄席に上がるのも限られるし、上がつたときもその実力が発揮出来るとは限らない。少なくとも私が観た高座はセコ金(質の低い客)の為にかはいさうなほどだつた。けれどもけふはその実力が発揮出来たのではないかな。池袋の下席といふこともあつて与へられた時間が十分にあつて、自らを汗つかきだと以前の高座のマクラで話してゐたが、大汗をかきかきの大熱演だつた。

■柳家甚語楼 弥次郎

逆にけふそんな役割を演じたのが甚語楼師。小権太さん、甚語楼師、左龍師と体型も似てゐれば、けふ口演した噺もジャンルは違ふが同じ滑稽噺といふことでちよつと損をした形。でもだからといつて、噺の質が悪かつたといふのではなくて、ただ目立たなかつただけだ。

■柳亭左龍 羽織の遊び

落語の噺には同じやうな入り方といふか導入部が結構あつて、ちよつと聞いただけでは何の噺かわからないことが多々ある。けふも「突き落とし」かな?と思つたら、「羽織の遊び」だつた。オカマチックな若旦那とのやり取りが秀逸。

■林家しん平 反対俥

恥づかしながら初見。これが映画「セーラー服と機関銃」で薬師丸ひろ子をバイクに乗つけて新宿を疾走した男?年取りましたねぇ。マクラを聴いたときはこりや漫談かなと思つたけれども、しつかりマクラを生かして噺の本題へ。ヘンに媚びたクスグリがあつたりオーバーアクションをするわけでもなく、しつかりとした古典落語でした。

■柳亭市馬 雛鍔

けふの高座返し、柳家緑君のことを肴に(ある師匠の時メクリを間違へさうになつた)自分の前座時代のことをマクラに。八代目の正蔵師匠との思ひ出が師の物まねを含めて笑ひを誘ふ。けふはちよつと風邪気味なのか咳をしたり手拭を鼻にやつたりと体調はイマイチの様子だつた。しかし噺のはうはさういふ体調の悪さとは関係なくいつものやうに水準以上。ちなみにこれも噺の導入部で「佐々木政談」と思つてしまつた。

■林家正蔵 四段目

やつぱり正蔵師は巧いと思ふ。芝居を題材にした演目を口演されたときに、その芝居について予備知識がなければ噺を聞いても何がなんだかチンプンカンプンで面白くないものである。そして普通の噺家さんは、さういふことを防ぐために芝居のことを知らないファンに向けて、興味を繋ぐやうなマクラをきちんとするだらうか。思ふにこの辺はテレビの司会の経験がある正蔵師の有利な点でぢやないかな。芝居についてクドクド説明するわけでもなく、それでゐて本題の噺へ興味を引くやうな話芸をこの人は持つてゐる。こんなこと当たり前かもしれないが、最近は教科書通りの噺しか出来ない噺家さん(真打、二つ目、前座問はず)が多い中で、これはもつと評価されてもいい。

■柳家さん生 親子酒

持ち時間のうち、マクラ半分、噺半分、といつたところか。マクラの居酒屋のオヤヂや小料理屋の女将の噺が面白かつた。むろんこれは噺自体が面白くなかつたといふことではなく、膝替はりとしては十分な内容。

■柳家小里ん 五人廻し

江戸弁が渋すぎ!と思つたところマクラもほとんど無しで噺へ。廓噺だが牛太郎(店の若い衆)と客とのやり取りが笑はせる滑稽噺でもあるので、演者によつて大爆笑させることだつて出来るのに、あまりの渋さに客席も静まり返つてゐた。口調が先代の小さん師に似てゐるといふ人もいるぐらゐだがら、もともとがそんなに大爆笑させる噺家ではないのだらう。ちよつと物足りないと思つた人もゐるかもしれないが、たまにはかういふ味はひある噺家さんの口演を聴くのもいい。

けふのやうに、たまたま入つた時にいい高座が聴けるのが寄席の魅力。だから寄席通ひはやめられない。

三遊亭歌る多「出来心」

2008年4月27日

4月26日 第十六回桃色婦人会@池袋演芸場

柳家緑君 寿限無

神田 茜 あのころの夢

三遊亭歌る多 人形買い

~中入り~

神田陽子 トゥーラン・ドット

三遊亭歌る多 出来心

黄金週間はじめの週末。肌寒く空模様も不安。しかし開場時にはまばらだつた客も開演時にはほぼ9割がた埋まつたか。

■柳家緑君 「寿限無」

花緑師匠のところの前座さん。入門してから一年たらず、まだ18になつたばかり。がんばつてください。

■神田 茜 「あのころの夢」

講談といふものを、この人を通じてはじめて聴いたことで印象が随分変はつた。脱力系講談といふべきか、講談界の「柳家喜多八」といふべきか。きつと噺家になつたとしてもユニークな噺家になつたと思ふ。話は宝くじに当たつた夫婦の「芝浜」的なストーリー。ここでは夫と妻が逆転してゐるが。講談といふことで落語的オチがないのが残念といへば残念だが、ストーリーが心に残るのは茜師の語り口、新作講談作家として高座の上の講釈師としてのそれが、きはめて自然で観客の感情移入をしやすくしてゐるのだらう。俳句や短歌も作り、舞台の台本や小説も書くといふ才人だからこそ出来るわざなのだらう。私事的にはこれから要チェック。

■神田陽子 「トゥーラン・ドット」

陽子師の十八番、オペラ講談である。プッチーニの同名作品から。この日の話題であつた長野の中国五輪聖火リレーの話題から、中国の講談界(中国では評弾といふ)との交流から本題へ。途中、荒川静香のトリノオリンピックのフィギュアスケートの演技で使用された同オペラの「誰も寝てはならない」をBGMに使ふつもりだつたやうだが、CDをかけることが出来ないといふことで陽子師自身が歌ふといふか、唸るといふか、さういふ出来事も。でも話自身はこのオペラを知らなくてもすぐに理解できるし、たとひ落語のやうにオチやサゲが無くてもその分落語よりオーバーといふかデフォルメされたアクションで見せるので(しかも陽子師の場合はそれが嫌みといふか、やりすぎになつてゐない)、最後まで飽きさせないし面白かつた。

■三遊亭歌る多 「人形買ひ」「出来心」

師匠の噺が好きなのは女を売り物にして噺をしてゐないところ。あくまでも自分の芸で勝負してゐるところいい。今日の演目はどちらもちよつと間の抜けた泥棒や町内の衆、ヘンにませた小僧が出て来る滑稽噺だが、師の男性の噺家以上に繊細な身振り手振り仕草は観る者を楽しませてくれる。これは師が女性であることがすこしは有利に働いてゐるからかもしれない。しかし私にとつては歌る多師の「芸」を観に来てゐるのだ。噺家が男であるとか女であるとかいふ前に、観る者聴く者を楽しませてくれる「芸」をしてくれればいい。師の噺を寄席で聴くやうになつてからさういふことを思ふやうになつてきた。今だ保守的な落語ファンの中(あるいは噺家さんたちの中にも)には「噺家は女性には向かない」と思つてゐる人がゐることは知られてゐる。さういふ人たちの考へ方を変へることは無理にしても、「芸」の中味を観ることの出来る人たちが歌る多師をはじめとする女性噺家さんたちを応援していけば、今の講談界のやうに数の上でも実力の上でもその存在感を増すことができるやうに思ふ。

会場には、落語をやつてゐるといふ小学校五年生ぐらゐの女の子が来てゐた。次世代の歌る多、陽子、茜師匠になるのか、各師匠の噺の最中、何が面白いのかとこちらが思ふほど笑ひつぱなしであつた。私のこんな純粋に楽しむ気持ちで落語を聞いていきたい。

次回は7月21日に開かれるとのこと。

出囃子と名人

2008年4月21日

HOME★9(ほめく): 【寄席な人々】噺家の出囃子

私のやうな洋楽で育つた世代に取つて、噺家の出囃子といふのは有名なロックのリフやジャズのフレーズと同じやうなもので、HOME★9(ほめく)さんがいふやうに出囃子が鳴るとそれがCDであれDVDであれ寄席でのライブであれ、胸躍る。おそらく私と同じやうな落語ファンは皆さうかもしれない。さういへば先日鈴本の高座で三遊亭小円歌師匠が志ん生師の「一丁入り」や志ん朝師の「老松」を奏でたあと三味線を調弦したのだが、その時客席から「おぉ」といふ声が上がつた。「大したことぢやないわよ」と小円歌師匠は言つてゐたが、たぶんその「おぉ」と言つたファンの何人かは元か現役の洋楽ファンで、師匠の調弦する姿にギタリストがステージの上でチューニングする姿とダブつたのかもしれない。あくまでこれは私の思ひ込みだが。そしてもしかしたら、クラプトンの「レイラ」やディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のイントロを出囃子として使ふ噺家もそのうち登場するかもしれない。

好みの問題と言われりゃそれまでですが、やはり「鳩ぽっぽ」や「ディビークロケット」じゃあ、雰囲気が出ませんやね。それに名人には絶対になれないですよ。

HOME★9(ほめく): 【寄席な人々】噺家の出囃子

王や長島だけがプロ野球選手ではないやうに、名人だけが噺家ではない、名人と呼ばれるだけが噺家の目的ではない、と思ふ。もし野球界に名人といふ枠があるといふなら「名球会」がさうだらうが、あれはある一定の水準を超えたといふだけだらう。名人になるより記憶に残る野球選手、噺家が増えてほしい、と私的には思ふのだが。ちなみに私にとつて記憶に残る野球選手は巨人、中日で活躍した広野功選手である。彼は現役中に二度逆転サヨナラ満塁本塁打を打つてをり(これは歴代1位)、長島が現役引退した試合に対戦した中日の一塁手として出場した。そして彼もこの試合を最後に現役を引退した。また私が小学校の時にただ1人サインを直に貰つた野球選手でもある。

噺家でいふと十代目金原亭馬生師。すでに名人ぢやないか、と言はれる向きもあるかもしれないが、最近の志ん朝師のブームと比べると、今では言葉は悪いが何とも日陰の存在だ。野村監督の言葉ではないが志ん生、志ん朝がひまはりなら、馬生はひつそりと咲く月見草なのかもしれない。

出囃子でいふなら、師はもともと「鞍馬」を使つてゐたが、最晩年には父志ん生師の「一丁入り」を使用してゐた。馬生師の父に対する屈折した気持ちは知られてゐるが、死期を察してせめて出囃子だけでも「ひまはり」になりたかつたのか。

蛇足だが、今では「鞍馬」は立川談春が使用してゐる。

柳家さん喬「おせつ徳三郎」

2008年4月20日

4月19日 第104回三平堂落語会@東京・鴬谷ねぎし三平堂

開口一番 林家種平

転宅 林家ぼたん

粗忽の使者 隅田川馬石

~中入り~

おせつ徳三郎 柳家さん喬

三平堂落語会には初めて行く。会場はJR山手線鴬谷駅を降り暫く歩いて住宅街の中にある。帰りに気がついたのだが隣駅の日暮里からも同じ距離ぐらゐ。時間があつたなら近くにある子規庵にも寄りたかつたが。それにしても周りは「さかさクラゲ」のマークばかり。

建物自体は普通の住宅(もちろん一般人のそれよりは大きいが)。その三階部分が故三平師匠の資料館になつてをりちいさな高座もある。50人も入ればいつぱいになる座布団敷の会場の最前列に座つて噺を観た。噺家さんとの距離は2mあるかないか、これだけ近いと噺の息づかひに圧倒される。

■開口一番 林家種平

とりあへずネタおろしといふ「紀州」を口演する。といふか、半分は漫談と注意事項とこの落語会の案内。

■転宅 林家ぼたん

実は楽しみにしてゐた。どんな風に泥棒を手玉にとるお妾さんを口演するのかと。結論からいふともう少し色気があつてもよかつた、と思ふ。でも女性の噺家さんがあまり色気を前にだすとなまなますぎるのか、すこし押さへ気味。今度は「夢の酒」を観てみたい。マクラで自身の手の話をしてゐたので、ぼたんさんの手ばかり観てゐた。いくら噺家さんでも、女性の顔をあんな間近でみるのは何だか照れるので。噺のあとに「奴さん」を踊る。

■粗忽の使者 隅田川馬石

初見。噺家になる前、石坂浩二主宰の劇団に入つてゐたといふことで表情の付け方は巧ゐ。マクラで自身の「隅田川馬石」といふ名前について語つてゐたが、「馬石(ばせき=うまいし)」が「巧いし」に思へたほど。大きな目をギョロギョロさせて演じた治部右衛門が留公に閻魔で尻をひねる場面は傑作。同門下の白酒師とともに自分の中では注目度二重丸である

~中入り~

■おせつ徳三郎 柳家さん喬

マクラもそこそこに噺へ。実はさん喬師、この日はこれで三席目。昼は三田でのビクター落語会、鈴本夜の部、そして三平堂落語会。しかも昼のビクター落語会ではすでに「おせつ徳三郎」を口演してゐる。これだけの長い噺を日に二度も口演するとなると大変だ。といふこともあつてか、近くで観ると少しばかり疲れのご様子。特に旦那と定吉のやり取りの場面でそれを感じた。それでも後半、刀屋の主人が徳三郎に自分の息子とダブらせて語るところはぢつくりと聴かせしんみりとした。

中入りでは、種平師がこれからの会の案内や他の師匠たちの出囃子の紹介をしてゐた。ちよつとドジつたのもご愛嬌。非常にアットホーム。町内で開かれる小さい落語会はままあるが、さん喬師クラスの師匠を迎へて間近で拝見できるものは嬉しい。料金も千円と安い。機会があればまたいつてみたい落語会だつた。

平成19年度(2007年度)国立演芸場・花形演芸大賞

2008年4月19日

http://home-9.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_ffc6.html

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/2019.html

大賞 三遊亭遊雀(落語)

金賞 古今亭菊之丞(落語)

   カンカラ(コント)

   林家たい平(落語)

銀賞 桃月庵白酒(落語)

   翁家和助(曲芸)

   春風亭一之輔(落語)

落語部門の受賞者について。誰も文句をつけることはできないだらう。

菊之丞師は何といつても多彩な噺の語り口が魅力。「紙入れ」の間男を引き入れるおかみさんの女形が代表的だが、幇間を口演させても職人を口演させても聽くものを魅了する。

たひ平師については本來ならこの人が三平の名を繼ぐべき、と思ふ。三平師が思ひ描いてゐた落語といふものを體現できるのは師においてゐないのではないかな。メディアでの露出に目が行きがちだが、その一方で古典を萬人に受け入れられるやうに努力してゐる姿はもつと注目されてもいい。

白酒師、權太樓師の落語の後繼者としてもつとも近い位置にゐるのではないか。高座に登場する度に表れるこの人の持つ暖かさといふか可笑しさといふのは、今の落語會にあつて貴重。

一之輔は古典をしつかりと口演しつつも、自分なりのアレンジを加へてゐるところには感心する。

遊雀師に關しては、すみません、拜見する機會に惠まれなくてまだ未見です。早いうちにちやんと觀なくては。それにしても權太樓師との關係は何とかならないのだらうか。おくがましゐがどなたか二人の間に入つて和解の機會を與へてほしい。

私的に思ふのは、今囘の受賞者何方もが落語を方程式を解くやうに語る噺家ではないといふこと。話す言葉の間に獨特の可笑しさがにじみ出る人ばかりである。

さういふ噺家が選ばれたのは非常に嬉しい。

桃月庵白酒「錦の袈裟」

2008年4月18日

4月16日 第三十回八王子駅前寄席「白酒・左龍ふたり会」@八王子学園都市センター・イベントホール

三遊亭たん丈 子ほめ

桃月庵白酒 代脈

柳亭左龍 棒鱈

~中入り~

柳亭左龍 普段の袴

桃月庵白酒 錦の袈裟

会場は東京・八王子駅前、東急スクエア12階にある定員200余りのホール。雰囲気は池袋演芸場に似てるかな。駅から近いのもいいですね。

■三遊亭たん丈 子ほめ

どうも歳を食った前座が出て来たなと思ったら、白酒師が言うに介護保険を払っている唯一の前座さんとのこと。後でプロフィールを確認してみると何と(数ヶ月ですが)私より年上。それはともかく、私はたん丈さんの噺のリズムに乗ることが出来ませんでした。どうもたん丈さんはあわない噺家さんのようです。

■桃月庵白酒 代脈

後で志ん朝師の「代脈」を聴いてみたところ、銀南の年齢設定がもうちょっと上のようでした。白酒師のそれは、小坊主の珍念さんと同じでコメディーキャラとしては十分だけれども、色情で迷っている医者見習い、というふうにはちょっと感じなかったかなぁ。それでも十分に面白く手堅くまとめられていました。

■柳亭左龍 棒鱈

初見。宣伝用の写真を見る限り怖い顔をしているなぁと思っていたのですが、噺を聴いているうちに物腰の柔らかさ、話し手振り身振りの丁寧さに、やはりさん喬師の門下だなと思いましたね。左龍師が患っている痛風の話題から噺に入っていきましたが、ライティングのせいか高座からの照り返しか顔色がちょっと悪く見えたのが心配。やはりお酒は控えたほうがよいかもですね。噺のほうは、以前三遊亭歌彦さんの「棒鱈」を聴いたことがあって、そのときは歌彦さんが鹿児島県出身だけあって薩摩侍の喋り方詠い方も堂に入っている、と思ったものです。一方、千葉県・柏市出身の左龍師の「棒鱈」はそのギャップを登場人物のデフォルメが十分に行うことで埋めていて大笑い。特に侍のミョーな詠いは絶品でした。

~中入り~

■柳亭左龍 普段の袴

これは今では珍しい噺だそう。なんでも八代目正蔵師匠や先代の小さん師匠がよく口演したとのこと。何から何まで侍の物真似をしようとする八五郎が間抜けぶりが可笑しかった。ここでもさん喬師直伝の噺の丁寧さによって、道具屋の主、侍、大家、八五郎を見事に演じ分けていました。ところで、噺を聞いている間に三波伸介かと錯覚したのは、私だけでしょうか。

■桃月庵白酒 錦の袈裟

噺の導入部が先日観た「突き落とし」と同じだったので今日も・・・と思ったら、「錦の袈裟」でした。冒頭ウコンの褌の件は端折ったようですが、ここでの与太郎は「代脈」の銀南とは違って、アホさ十分バカさ十二分に発揮されていました。もうちょっとバレ噺っぽくしてもいいかなとも思ったりしましたが、コアな落語ファンばかりでない今回のような落語会ではちょうどいいのかと。あとふと思ったりしたのですが、この噺のオチって「明烏」のパロディ?

この八王子駅前寄席、駅からも近く開演も午後7時からということで、私の場合仕事が終わってからも十分に開演までに間にあい平日でも落語会を楽しむことが出来ました。近辺にお住まいの方にはおすすめの落語会ですよ。

柳家権太楼「試し酒」

2008年4月15日

4月12日 第五回特撰落語会「ほたると白酒と権太楼」@深川江戸資料館小劇場

柳家小ぞう 真田小僧

桃月庵白酒 あくび指南

柳家権太楼 死神

桃月庵白酒 突き落とし

~中入り~

口上 権太楼 白酒 ほたる

柳家ほたる お菊の皿

柳家権太楼 試し酒

■柳家小ぞう 真田小僧

小ぞうさんはさん喬師匠門下の前座さん。これまでに何度か高座を観ていますが、ほたるくんが陽のフラをもっているとするなら、小ぞうさんは陰のフラを持っていると思います。例えていうなら、柳家喜多八師匠のような。金坊、お父っつぁん、お母っつぁんの描き分けも巧く出来ていて、これからが期待できます。

■桃月庵白酒 あくび指南

マクラは文字通り権太楼師との熱海での酒宴の話。噺は、かつて志ん朝師匠が「(十代目金原亭馬生)師匠から教わったろ?そうだろ、そうだろ。うちの兄貴もそんなふうにやってたよ!」と白酒師匠におっしゃったそうですが、金原亭伝統の形で。大きな身体を使って湯船に浸かりながら、また船の上でのあくびを覚える場面は、非常にユーモラスでした。

■柳家権太楼 死神

例えば小三治師匠の「死神」を聴くと、やはりどこか薄ら寒いホラーとしての死神ですが、権太楼師が演じるとそこはそれ、単なるコメディーキャラとしての死神には終わりません。でもそれが面白くないか、といえばそうではない。普段師の演じるキャラとは違う死神に客は笑いこそすれ、ラストは季節を先取りして背筋がゾーっとなりました。ちなみにこの「死神」という噺、もともとはグリム童話がオリジナルだということ知ってました?

死神 (落語) – Wikipedia

■桃月庵白酒 突き落とし

マクラはほたるくんと体型が似ていることを肴に、焼肉を食べることについて。それはいいのですけれど、あまり気安く歌る美(カルビ)、歌る美(カルビ)って連呼しないで下さいね、師匠(笑)。「突き落とし」は初めて聞く噺。吉原で金のない連中がどんちゃん騒ぎをして無銭飲食をする噺なんですが、白酒師が演じると彼らの馬鹿馬鹿しい騒動が目に浮かんでくるよう。それほど師のアクションは聴く者の想像力をかきたててくれます。オチは仲間がどんどん増えていって海を渡りアリババと40人の盗賊になったとさ、というもの。

~中入り~

■柳家ごん坊改めほたる 二つ目昇進口上

これって権太楼師の演出だったの!?と思えるほど、ボケをかました(失礼)口上でした。でも師のほたるくんへのメッセージは熱かった。「身体で演じる噺家になれ。頭で演じる噺家になるな」これは権太楼一門のモットーでしょう。

■柳家ほたる お菊の皿

何度目かな、ほたるくんの「お菊の皿」聴くの。それでも聴くたびに上手くなっています。もちろん今まで聴いた中では今回のがベスト。余計なクスグリをカットし、その分アクションを重視して演じていて、可笑しさが倍増したように思えます。

■柳家権太楼 試し酒

時刻が午後九時近くになってしまい、マクラは一言、「ほたるは『桃太郎』なんかを演ればいいのに」。さっそく噺に入りました。でも白酒師の「あくび指南」のマクラがこんなところで生きて来るとは!もしかしたら時間がなくなったので、急遽演目を変えたのかもしれません。それでも終演時刻を気にさせないほど、酒一升を飲み干す度に、拍手と大爆笑して、無事お開きとなりました。

いずれの演目も権太楼師が口上で言った「身体で演じる噺家」が体現されたものでした。私にとっては「落語とはこういうものだ」ということを改めて実感さてくれた落語会。最近ではベストといっていいものでした。

林家正蔵師のこと

2008年4月8日

昨日の池袋演芸場の夜の部の主任は柳亭市馬師でしたが、演芸場のHPによると昼の部の林家正蔵師と交代したようです。昨日行かれた方は得しましたね。

もちろんその場にはいなかったのでどんな演目を口演したかはわかりませんが、正蔵師匠は以前からスケジュールがあう限り代演したり、今回のような交代も気軽に応じていたようです。

師匠に関しては「こぶ平」時代のタレントとしてのイメージが依然強くて、今だ落語ファンの一部には過小評価をする向きもあります。

けれども安易にテレビ時代のギャグを自分の高座に持ち込まず、真摯に人情噺や名人噺に取り組み寄席を大切にする姿に、私は一人のファンとして頭が下がります。

もちろん噺家の評価というのは、私たち観客が行うものが一番だとは思いますが、その私たちが色眼鏡を通して観ていてはダメですね。

柳亭市馬「らくだ」

2008年4月6日

4月5日 落語協会4月上席昼の部・夜の部@池袋演芸場

昼の部

三遊亭歌る美「たらちね」・・・◎

春風亭一之輔「初天神」・・・○

三遊亭歌武蔵「子ぼめ」・・・○

柳家ほたる「転失気」

三遊亭多歌介「かわり目」

三遊亭歌る多「宗論」・・・◎

林家正藏「鼓ヶ滝」・・・◎

柳家さん喬「長短」・・・◎

中入り

橘家文左衛門「道灌」・・・○

五街道雲助「粗忽の釘」

三遊亭小円歌「三味線漫談」踊り「やっこ」・・・◎

三遊亭歌之介「お父さんのハンディ」(新作)・・・○

夜の部

三遊亭歌すみ「寿限無」

柳家小権太「片棒」・・・△

初音家佐吉「狸の札」

橘家圓太郎「浮世床」・・・◎

林家たい平「不動坊」・・・○

柳家小袁治「王子の狐」

中入り

古今亭菊之丞「幇間腹」・・・◎

林家正楽 紙切り「あいあい傘」「王子の狐」「入学式」「花まつり」

柳亭市馬「らくだ」・・・◎

■まずは前座さん

歌る美、歌すみさんとも三遊亭歌る多師匠のお弟子さん。初見でしたが失礼ながら思ったより上出来でした。若干歌すみさんの「寿限無」のほうが単調な感じがしましたが、キャラクターの演じ分けは、前座としてはうまく出来ていたかな、と思います。特に先日の鈴本での高座返しで一度でファンになった歌る美ちゃん(と呼ばせていただきます、勝手に)はここ一年間の稽古の努力が徐々に現れていると感じました。アニメの声優みたいだと向きもあるでしょうが、入門して一年あまりにしては何か光る物が出て来たように思えます。これも女性落語家としての苦労やハンディキャップを十分に知っている師匠がしっかり教育されているからでしょう。ただ一つだけ。歌る美ちゃん、前髪が目にかかるのは噺家としてはマズいのではないかい?目にかからないよう切るか上げるかしたほうがいいと思うよ。

■春風亭一之輔「初天神」

初見。恥ずかしながらこんなうまい噺家さんだとは思わなかった。

■三遊亭歌武蔵「子ぼめ」

さすが、安心して観ていられる。

■柳家ほたる「転失気」

その他の噺が聴きたいです。早く片手が広げられるようになってください。

■三遊亭多歌介「かわり目」

所々で大声で話し、場内で寝ていた客をおこしていた(笑)

■三遊亭歌る多「宗論」

キリスト教に熱心な息子を現代娘に変えていた。サゲが秀逸。「オレゴン州」と来るとは思わなかった。

■林家正藏「鼓ヶ滝」

師匠の十八番という。落語辞典には載っていなかった。正藏師はこういった人情話や名人伝がいいですね。

■柳家さん喬「長短」

若い噺家さんがこれを演ると、気の長い長さんと気の短い短七の、キャラクターの演じ分けがうまくいかない場合が多いのですが、さすが師匠はちがう。観てるほうが焦れったくなるほどに巧いですね。

■橘家文左衛門「道灌」

ご本人も言っていましたが、やっぱり師にとっては池袋演芸場がホームグラウンドなんでしょうか。先日の鈴本では主任だったせいか、今回は持ち味を発揮していました。

■五街道雲助「粗忽の釘」

雲助師匠の噺は一度はちゃんと聴かなければ。

■三遊亭小円歌「三味線漫談」踊り「やっこ」

志ん朝師の出囃子「老松」や志ん生師の出囃子「一丁入り」が聴けてたのが嬉しかったです。踊りは会場にいたおじいさんのリクエスト。

■三遊亭歌之介「お父さんのハンディ」(新作)

受験生の息子のためにゴルフ断ちをしたお父さんの爆笑話。笑いすぎてサゲがどんなだったか、忘れてしまいました。

■柳家小権太「片棒」

肝心の三男坊以下の話はカット。木遣りやお囃子のところは熱演していたが、最前列の客二人が熟睡していて気の毒でした。

■初音家佐吉「狸の札」

以前聴いた「堀之内」と同じ調子。髪の毛をなんとかしてください。

■橘家圓太郎「浮世床」

私的には最近聴いた「浮世床」のうちでは一番!圓太郎師匠のファンになりました。

■林家たい平「不動坊」

マクラもそこそこに噺へ。冒頭を聴いたら、たらちね?と思いましたが、「不動坊」でした。

■柳家小袁治「王子の狐」

マクラで符牒の話をしていたのでどんな噺をするのかなと思ったら、「化ける」からこの噺でした。

■古今亭菊之丞「幇間腹」

菊之丞・柳朝二人会で聴いた「紙入れ」と同じマクラだったのでそれを演るのかな、と思ったらそれとは正反対の滑稽話。古今亭正統の志ん生バージョンで。幇間らしいあざやかな青の羽織が素敵でした。

■柳亭市馬「らくだ」

同じく4月上席は、兄弟弟子の三三が鈴本で、花緑が末広亭で主任をはっているというマクラから、俺も負けて入られないという師匠の気持ちがありあり。噺のほうも渾身の50分の完全版。らくだの兄弟分と彼に酒を飲まされた後の屑屋の描写は迫力満点。

やっぱり落語は寄席や落語会に行って高座を観ることが一番だと思いましたね。特に今日は表情や身振り手振りが重要な役割を果たす噺が多く、その思いをあらためて強くしました。

「ちりとてちん」と「酢豆腐」

2008年4月4日

求む『酢豆腐』 落語の噺とネコの話

ということで、手持ちの音源で志ん朝師匠の「酢豆腐」を聴いてみました。

そもそも関東の噺であった「酢豆腐」が上方に行って「ちりとてちん」という噺になり、それがまた関東に言わば逆輸入という形で戻って来た、それが今の「ちりとてちん」の成り立ちなんですね。

まず内容的には、細部は異なるが似たような噺ということでしたが、前半部が全然違う。

「ちりとてちん」は旦那の誕生日に町内の男が訊ねて来て、オベンチャラを言いながら御馳走にありつくという話。

「酢豆腐」はある夏の日、金もない暇な町の衆が暑気払いの相談をしている。そこで、酒の肴に誰かが糠味噌の古漬けを使ったらどうかというので、糠漬け床から古漬けを引け上げる、引き上げないの騒動がもちあがる。

「酢豆腐」の糠漬けの騒動は、志ん生師匠の大の漬け物嫌いを知っていると思わずにやりとしてしまいますね。まさに楽屋落ち、というかこの場合は身内落ち。ちなみにこの話は師匠の長女、美濃部美津子さんの「三人噺 志ん生・馬生・志ん朝」という本に出てきます。

三人噺 志ん生・馬生・志ん朝 (文春文庫)

三人噺 志ん生・馬生・志ん朝 (文春文庫)

ところで「ちりとてちん」はもちろんテレビの影響もあるけれど、近頃は寄席に行く度に必ず1人は演る噺になってしまっています。ある真打さんによると、今年に入ってからその人ひとりで10回は口演したとか。この中には定席だけではなく、いろいろな落語会も含めてということですが、こういったところへ行くと頻繁にリクエストがかかったそうです。

改めてテレビの影響の大きさを感じないわけにはいきませんが、それ以上に一部の噺家さんが、こういったら悪口に聞こえるかもしれませんが、いくら客の需要、要求があるからといって、彼らに媚を売るように同じ噺ばかり演るというのもなぁ、と思ってしまいます。

さて「ちりとてちん」と「酢豆腐」の噺そのものにもどりますが、私自身はどちらが好きかと聴かれれば、「酢豆腐」のほうを好きですね。特に志ん朝師匠のバージョンでは、若い衆の馬鹿騒ぎが相変わらずの江戸弁で生き生きと語られていきます。

あとは蛇足。

今まで聴いた「ちりとてちん」では、なぜ「ちりとてちん」というかというところ(旦那の娘が弾いていた三味線の音色、または裏の稽古屋から聞こえる三味線の音色)というのを省いているんですよねぇ。これもテレビで既に題名が知られているからでしょうか?

実際に腐った豆腐を食べた噺家がいるそうです。瀧川鯉昇師匠がその人で、噺家になる前のことらしいですが、半月ほど高熱で寝込んだそうです。