桂平治「善光寺の由来~お血脈」

国立演芸場10月中席初日がハネたあと、新橋に移動した。

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10月11日 第13回らくだ亭「競演!笑いの激突三人会」@内幸町ホール

柳亭市朗   悋気の独楽

桃月庵白酒  寝床

古今亭菊之丞 素人鰻

~中入り~

桂平治    善光寺の由来~お血脈

■柳亭市朗 悋気の独楽

最初に断っておきたいが、私は市朗さんが11月に二つ目に昇進することに何の反対もしない。が、かといって二つ目に昇進することについて手放しで喜べるわけでもない。キツイ書き方になるかもしれないが、彼にはどこか落語を舐めているようなところが散見される。今回のネタでいえば定吉はどう見ても子供には見えないし、本妻や妾はやたら奇妙なしなをつくるような仕草や語り口はバラエティ番組のコントのほうがまだまし。そして少なくとも自分の二つ目昇進について、客にあんな口の利き方をするべきではない。あなたはまだ11月11日までは前座なのだよ。また噺の質自体も高座を通じて客席からほとんど笑いが起きなかったことを十二分に知るべきだ。

■桃月庵白酒 寝床

白酒師の「寝床」は6月6日の道玄寄席以来。*1でもこの時は師は本調子ではく、話自体の出来も悪かった。でも今回は上の上出来。久々に白酒師らしい高座を観ることが出来た。しかも昼の国立演芸場で最悪の「寝床」を聴いていたのでなおさら。冒頭から旦那の義太夫の調子外れの声と番頭の重蔵とのやりとりがシンクロ、重蔵が気を遣いながらも長屋の連中、店の者が旦那の義太夫の会に行きたがっていないことを語るものの、それを知って旦那が落胆していく姿が可笑しい。師の寝床は、ありがちな一遍通りの語りではなく、そういうディテールの描写が秀逸だから、笑いの上に笑いを重ねていくのだ。そしてその後の再び義太夫を語ることが出来ると知ったときの旦那の喜びようは、私だって下手な義太夫は聴きたくないとは思うが、心ならずとも旦那に「よかったね」と声を掛けたくなるようだった。後半は師の十八番のクスグリの連発。陰に隠れているから大丈夫だといった町の衆が「流れ義太夫」に当たって気絶したり、飽き飽きした義太夫の師匠がいつの間にか三味線で「パイプライン」や「天国への階段」を弾いていたりと、ほとんど落語におけるスプラスティックコメディと化す。仮に周囲に落語を観てみたい、聴いてみたいという人がいたら、この白酒師の「寝床」を進めます。

■古今亭菊之丞 素人鰻

不勉強で知らなかったのだが、この「素人鰻」、師の十八番の一つだとのこと。それを知ったら今回の出来も納得だ。このネタ、所謂「武士の商法」と呼ばれる前半と「鰻屋」と呼ばれる後半では色合いが全く違う。マクラで自身の稽古のやり方、酒でのエピソードをふったあとで、前半の「武士の商法」の噺へ。これは題名とは異なり、酒さえ飲まなければ腕のいい鰻板前の金が、禁酒の誓いを破り酒に狂っていく課程が、ほとんど金の一人語りで描写されていく。可笑しみはあるものの酒で悩んだことのある人間にとっては身につまされる現実感がある。一方、「鰻屋」の方は仕事というものを初めてする元武士の姿をドタバタ調で描いてはいるが、冒頭「武士の商法」がほとんどうまくいかなかったことを語っているので、こちらにも悲壮感が伴う。そんな風に感じることができるのも、二つのパートを通して菊之丞師の人物造形が、例えば金が酒を飲むときの表現のしかたや元武士の鰻と格闘する姿などを念入りに描いているからである。

■桂平治 善光寺の由来~お血脈

去る10月1日の「源平盛衰記」に引き続き*2、今回も地の噺。けれども全然飽きることがなかった。マクラで本当なら「禁酒番屋」をやりたかったという平治師。ところが酔っぱらいの話は菊之丞師がやってしまったので、このネタにしたと語る。「源平盛衰記」の時もそうだったけれど、至る所で話が脱線する。その話が脱線した先の駄洒落やクスグリがケッサク。白酒師の高座名が思い出せず、「喜助さんが、喜助さんが」と二つ目の名を呼んだり、妹弟子右團治とのエピソード、時事ネタ、自虐ネタ、柳昇師や圓丈師の物まね、講談を語ったりと観客を飽きさせない工夫がされている。中でも爆笑したのは、「これが善光寺の由来です。」と言った後、高座の上で頭を下げる平治師。客は当然ここで噺が終わるものだと思う。ところが平治師、おもむろに顔を上げ「寄席では時間がないので、普通はここでおわるのですが、この先があるのです」といって、客席を唖然とさせながらも「お血脈」の部分へ入っていく。この後半は前半に比べ脱線は少ないものの、芝居ががった台詞はこの人の懐の深さを感じさせる。平治師、基本的には芸協の噺家の芸風ではあるけれども、そこには収まりきれないスケールの大きさがある。どちらかといえば、遊雀師のようなコピーではない、純粋な権太楼師の継承者という風に感じることが出来た。今回、前回とも地の噺で、いわば漫談がリミックスされた落語とも言える。次回は「御神酒徳利」を12月に聴く予定。先日市馬師の名演を聴いたばかりだが、今から待ちどおしい。

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